協力−あいいれぬものたち−

「困るんだよねぇ。いっっつも失敗ばっかり」
 いつものごとく、黒き風を倒しに行って、いつものごとくやられてくる。
 そんな部下達に伯爵は愛想が尽きかけていた。
 特に今日は最悪だ。
 フングスが行って、ヘルバが行って、ピストが行って・・・
 結果は先程の通り。
 全敗・・・。
 頼りの魔剣士も何処かに行ってしまっている。
 現在はオスカーが「風」の所へ行っている。
 だから、この要塞に残っているのは、伯爵と四凱将達(オスカーを除く)。
 そしてパティシエの6人。
 パティシエはこの際おいておくことにしよう。
「どうなんだい?フングス」
 フングスは口ごもりながら言い訳をする。
 それを伯爵は不満と共に睨みつけていた。
「・・・まことに、申し訳ありません。少しばかり・・計画が・狂ってしまい・・」
「ふ〜ん。君はどうなんだい?ピスト」
 水たまりの状態で逃げようとするピストを呼び止める。
 ピストは元の姿に戻り伯爵の方を向いた。
「僕から逃げる気かい?いい度胸じゃないか」
「めっそう〜もありません。ただ自分は早く、伯爵様のためにできることを探そうと 思って・・・」
「君も、フングスと大差ないね」
 伯爵に一言で罵倒されたピストは反論ができない。
 これがフングスやヘルバなら・・・。
 と、少し握り拳を作る。
「ほぉんと、おばかちゃんなんだから」
 ヘルバが笑いながらフングスとピストを見る。
「お前もだよ、ヘルバ。・・・人のこと笑ってないでさっさと行ってきたらどうなん だ!?」
 穏やかに話していた伯爵もついにぶちきれ、大声を張り上げた。
 部屋中が震えた。
「はっ!ただ今行ってまいります!」
「このピストめにお任せを!」
「(仕方ないけど)行ってきま〜す!」
 慌てて部屋を後にする。
 ため息をつく伯爵。
(まったく・・・頼りなるのかならないのか・・・)


「しかし、どうすれば・・・」
「そうよねぇ。魔銃ちゃんたら、すんごく強いもの」
 伯爵に言われ、どうにかして「風」を倒そうと考えている一同達。
 だが、なかなか良い案が浮かばない。
 この3人の中で一番頭が良いのはピストだ。
 そのピストも頭を悩ませている。
「なにかいい手は・・・」
『私もその話に入れていただけませんか?』
 突然上部から聞こえてくる不気味な声。
 3人が上を見上げるとそこにはオスカーがぶら下がっていた。
 いつものようにクネクネとしている。
「お困りのようですねぇ」
 床まで下りてきて3人の顔をまじまじと見据える。
 何も言い返せないのが現状だ。  3人は黙ったままでいた。 「私もねぇ黒き風討伐に失敗したのですよ。それで伯爵様に怒鳴れまして・・・」 「それで私たちの元へ来たという訳か」
「ええ。さきほどから聞いていたのですが皆様は大切なことに気づいておられませ ん」
 意味深な言葉に顔をゆがめる3人。
 オスカーは説明を始めた。
「仮に黒き風達を正義とします。そして私たちを悪役としましょう。だいたいこの関 係の場合、悪役は1人ずつ正義に向かっていくのです。そう、今の私たちのように・ ・・。分かりますか?こけでは本来の悪役のセオリー通りに負けてしまう訳なんです」
 オスカーのよく分からない説明に一同は納得する。
 確かに、いつも1人ずつ向かっていって負ける。
 ならば、多勢に無勢でGO。
 簡単に言えば、袋だたき。
「『3本の矢』ですよ。1本ではおれてしまう矢も3本の束では折られにくい」
 オスカーは簡潔に説明をまとめた。
「な、なるほど!」
「オスカーちゃん、あったまい〜い」
「いえいえ・・・それではどうするか決めましょう。初めての連携プレーとやらを・・・」
 一同は気づいた。
 自分たちが今まで他人と協力して戦ったことがあったかと・・・。
 答えなくても、いつもの四凱将を見ていればすぐに分かる。
 互いが互いをけなし合っているのだ。
 気が合うこともない。
 どちらかと言えば、気が合わない方だ。
 そんな彼等がいきなり連係プレーなどというものを行うことができるのであろうか。
「では、こうしましょう・・・・・・・・・・」


 一同はいきなり「風」と戦うのはまずいと思いそれ相応の者とシュミレートするこ とにした。
 その相手は、やはり魔剣士しかいないだろう。
「魔剣士殿。すみませんが私達の特訓につきあっていただけませんか?」  魔剣士は無言で頷いた。
 他の3人も初めてのことなので張り切っている。
「それでは、始めたいと思います。それぞれ所定の位置へ」
 いつもならここで文句が出るところだが、今日に限ってそれがない。
 それだけ彼等が一致団結しているということなのだろうか。
「いきますよ・・・魔剣士殿・・・」
 オスカーの合図と共にフングスが突進していく。
「魔剣士ぃ!」
 魔剣士は魔剣を構える。
 そこへピストの水圧銃とヘルバの花粉が加わった。
 だが、それがまずかった。
 花粉は魔剣士だけでなくフングスにも降りかかる。
 さらに当の魔剣士は魔剣の剣風で花粉を吹き飛ばしていた。
 フングスは足下がふらついて突進が止まってしまう。
 さらにそこへピストの水流が激突した。
「なにをする!!それがしの邪魔をするな!!」
 犠牲となったフングスが怒声をあげる。
 これでは連係プレーもなにもあったものじゃない。
 魔剣士はこめかみを押さえて困った表情をしていた。
 自分の時間を割いてまで特訓に付き合っているというのに、その彼等が自分を放っ てケンカ沙汰になっている。
 だんだんと苛立ちが募る。
 それに気付かず3人は騒ぎあっている。
 魔剣士は無駄な時間を省くため、ある行動をとった。
「黒き風と闘うなら、これを克服してみろ!」
 そう言って魔剣を掲げ、ミストの入ったボトルを取り出す。
 空中に放り投げ決め台詞を放つ。
−目前の者達に、奏でよ『白裂のロンド』!!−
 ボトルを一刀両断して一刀獣を召喚する。
 いきなりの一刀獣の出現に戸惑う3人。
 抵抗にピストが水流を、ヘルバが花粉を放つ。
 だが、そんな物が召喚獣に効くわけがなかった。
 花粉を浴びても水流をくらっても全く微動だにしない。
 フングスはあえなく粉砕されてしまった。
「あいつに勝つなら、召喚獣の対策も立てておくことだ」
 一刀獣は役目を終えてミストに戻る。
 魔剣士は部屋を後にした。
 呆然と立ちすくむ四凱将達。
「お前たち!」
 どこからともなく声が聞こえる。
 何処かと探すと胞子となって漂うフングスがいた。
「ちゃんとアシストしていたのか!」
 その言いぐさに他の四凱将が反論しないわけがない。
「何よ!フングスちゃんが弱いから失敗したのよ!」
「なんだと!ピストもピストではないか!あんな水鉄砲が効くわけなかろう!」
「なにを言うかと思えば・・・自分の失敗を他人になすりつけるなど・・・」
 いつもの調子に戻ってしまう。
 オスカーは傍観していて思った。
(連係プレーをしろと言いましたが・・・あれでは全然だめですね)
 そしてオスカーは伯爵の元へと帰っていった。
 まだ、3人は気づいていない。
 闘っていたのはこの3人だけで、発案者のオスカーは傍観に徹していたということ に。


「で?黒き風は倒せたのかい?」
 伯爵の間に呼び寄せられた四凱将。
 伯爵の不機嫌さはかなり絶頂に達している。
 雰囲気でそれが分かるほどだ。
「いえ、それが、魔銃の男を倒すシュミレートをしていたところ、いざこざになりま して」
「ということは、行ってないんだね?」
「ごめんなさ〜い伯爵様。みんなの息が合わなくってぇ」
「何をしていたんだい?僕の命令を無視して」
「いえ無視していたわけではありません。一応、準備をするということで・・・」
「どのみち言い訳じゃないか!!連係プレーの練習なんてする必要ないんだ!所詮、 連携なんてものはお前達には無理なんだ!」
(やっぱり頼りにならない・・・)
 それ以来、協力して闘おう、という案が出ることは無かった。

 最初に気付かなかったのであろうか。
 

ポイントとしては無理に連係プレーをしようとする3人のやりとり。そして少し キレ気味の魔剣士ですね。伯爵様とオスカーは影が薄いかも。



え〜またまたモグ様に頂いてしまいました小説です。
なにげにキレ気味の雲がよいです〜v
モグ様すばらしい小説有り難うございました!