『密林−あやしのもりのまよいびと−』 「うわ・・・なに、その顔?」 「うるさいなぁ!いらいらしてるんだから話しかけないで!」 エミルの怒号が蒸し暑い密林に響く。 このエミルのいらいらは前回から続いていた。 前回、そう温泉に入ったときのことである。 あの後は悲惨だった。 騒ぎを聞きつけてモンスターは襲ってくるわ、キレたエミルが魔法をぶっ放すわの大騒ぎとなったのだ。 普段は大人しいエミルだが、やはり人間である。 キレたときは凄かった。 今はモンスターの襲撃も収まり、エミルの怒りもクールダウンし始めた。 しかし、エミルのいらいらはかなり顔に出ており、それを海が言ったのだ。 未だエミルのいらいらは無くなっていない。 そしてまだ彼等の災難は続いている。 それはミドの一言から幕を開けた。 ふと足を止めるミド。 「どうしたんですか?」 ピストが声をかける。 先頭を歩いていたミドは振り返って笑顔で答えた。 ピストはその笑顔でなにか良くないことを悟った。 そしてそれは的中した。 「ごめん、道に迷ちゃった・・・えへ」 えへ、で済むかあああぁぁ!!!と言わんばかりの表情のピスト。 ミドは自分の服に内蔵されているコンピューターで道を確認し始める。 おかしいなぁ、とか、何処で間違えたのかしら、等という言葉が聞こえる。 ため息をつきながら、ピストはこのことを海とエミルに伝えに行くことにした。 「2人とも、怒らないで聞いてくださいよ」 ピストの引きつった笑顔は2人に不信感を抱かせた。 今から言うことが良くないことだというのは一目瞭然。 「ピスト、今のエミルには悪いことはいわない方がいいよ」 小声でピストに話しかける海。 これ以上エミルを怒らせたら、とんでもないことになりそうだという考えからの行動である。 「どうしたの2人とも?まさか道に迷ったとかなんとか言うんじゃないでしょうね」 「え?あ、あはは・・・」 ずばり当てられ、苦笑を浮かべるピスト。 だが、思ったよりもエミルの反応は小さかった。 「なぁんだそれだけか」 「それだけって?」 「食料が後を尽きたとか、もっと大変なことかと思って」 どうやらエミルの怒りは完全に静まったらしい。 いつものエミルに戻っている。 海達の顔にも安堵の色が浮かぶ。 その時、ミドが慌てながら走ってきた。 「ミド!?どうしたの?道に迷っただけなんでしょ?」 「それだけなら良かったんだけどね、実はちょっとやばいことになりそうなのよ」 「やばいこと?」 ミドは自分のコンピューターに現在地を映しだした。 そこには森のグラフィックと自分たちを示す4つの赤い点がしめされてるだけ。 ミドが慌てている理由が分からない3人は首をかしげている。 「うん、実は・・・この森はね。サラマンと言って異界の中でも、かなりの危険区域なのよ」 混沌が倒されてからの20年くらい前から、コモディーン達が指揮をとり、異界中を探索している。 その結果、各世界ごとのマップはできあがっているのだ。 だから、異界が動いても自分のいる世界がどこなのかさえ分かれば目的の場所へたどり着けるというわけだ。 しかし、その中にもこのサラマンのような危険な世界もある。 「この森のどこが危険なんだ?」 「そう、見た感じだけでは危険とは思えないこの密林。だけどね、ここは植物だけの‘元’階層宇宙『プランティア』の一部なの」 「プ、プランティアですと!?」 その単語にピストは恐怖した。 「ピスト、何か知ってるの?」 「プランティアは私がタイラント伯爵様に仕えていたときに異界に吸収された世界なのです。確かヘルバがここの管轄を任されていたので・・・」 「ヘルバって四凱将だった?確かあの後異界女王とかにもなったよね」 「異界女王?まぁ、その辺りは知らないのですが―――ヘルバは植物のモンスターを束ねていました。 ここはヘルバにとって楽園だったに違いありません。ということはあのヘルバのことですから、 きっとここには植物モンスターのほとんどを放し飼いしていたに違いないんです」 簡単に言えばこうだ『ヘルバのモンスターが勝手に繁殖してできた魔物の巣窟』。 しかも、ヘルバの性格を考えると、きっとモンスター達は残虐な奴等だろう。 「でも、ただ単にモンスターの数が多いだけなんだろう?みんなで力を合わせれば大丈夫なんじゃ―――」 「甘いわ。ここにいるモンスター達を他のそれと一緒にしないことね」 海の言葉を遮ってミドが忠告を告げる。 いつになく厳しい態度のミド。 海は大人しくそれに従うことにした。 「そのモンスターの強さ故にここだけマップが完成していないの。どういう事か分かるわね?」 「道に迷ってマップを広げても意味がないという事?」 「ご名答。対策としては―――そうね、一応私達がこの森に入ってきた場所は分かっているから、そこから一直線の道を選びましょ」 ひとまず自分たちの現現在地と森の入り口を結ぶ。 そこからひたすらまっすぐに森を抜けるというのだ。 アバウトだが一番正確かもしれない。 全員一致で、さぁLet's GOというときだ。 がさがさと周囲から嫌な気配を感じた。 大声で騒ぎすぎたのだ。 すでに四方、いや八方をモンスター達に囲まれている。 しかし、どこにもその姿は見えない。 それもそのはずだ。 「みんな、敵は全員これらの植物よ!気を付けて」 そう、ここに動物はいないのだ。 全てを植物が支配する世界。 そこでは動物は植物の餌となる。 「んなの、ごめんだね」 波動拳を放ちながら海が叫ぶ。 波動がモンスターを焼き払うがきりがない。 エミルの火炎呪文、ミドの火炎放射、ピストは水圧銃でモンスターを倒していく。 「だけどさぁ、これじゃあきりないわよ」 「ヘルバの置きみやげにここまで苦しめられるとは」 「相手に隙ができたら、一気に走り抜けなきゃならないわ」 「でも、その隙すらないんだから!」 そんなことを話しているうちに、まだまだモンスターの数は増えていく。 逃げるなら、すぐに手を打たなければならない。 「じゃあみんなの攻撃を一点に集中させて少しでも道を作るって事でいいですか?」 「悠長に考えている暇は無いですし、それでいきましょう」 一斉に構えてモンスターに攻撃する。 予想通り、モンスター達は火を避けて道をあけた。 4人はそこに向かって一直線に走り出した。 少しでも怖じ気づけ ば、すぐに植物の餌食なってしまう。 「今だっ!!!」 気合いと共に走り抜ける。 4人は無我夢中で密林を走った。 「ね、ねぇっ!私達何処に向かってるの!?」 「し、知りませんよ!モンスター達が襲ってこないところまでですよ!」 「あんなにいっぱいの、モンスターがいるなんて・・絶対、詐欺だよな」 「走りながら喋らない方がいいわよ。体力が持たないから」 どのくらい走り続けただろうか。 背後から植物たちの気配が消えるまで4人は走り続けた。 その目の前に天からの助けとでも言うべき光が見えた。 この密林の出口だ。 あの植物たちも日の照る密林の外までは襲ってこれない。 「よかった―――――・・・はぁ」 走り続けた4人は、ぐったりと座り込んでしまった。 何もする気が起きない。 ただ密林を抜けることができただけで良しとしなければならない。 「なんとか振り切れたね」 エミルが呟いた。 「しかし―――今日で何日分の体力を使い果たしたんでしょうね」 ピストもかなり疲れている。 「私、もう動けない・・・」 ミドも体力がない様子だ。 「右に同じく」 海も同じ気持ちだ。 「もう、話す気力も起こらないわ」 「そうだねー」 「だったら喋らなきゃいいのに・・・」 空を仰ぐように仰向けに寝ころんだままたわいもない会話を続ける。 魂の入っていない笑い声は夕暮れの空に消えていった。 え〜これはモグ様にゲームで上位に入った賞品として頂いたもので、 温泉のその後の話です。 モグ様いつもいつも素敵な小説をありがとうございます!! |