兄弟−ほほえましき?こうけい− 僕は白い「雲」。 このミステリアに暮らしている。 僕には、兄様が1人いる。 優しくて強くて、僕のあこがれの人だ。 でも、時には許せないことだってある・・・。 「ただいま」 僕は外から帰ってきて、玄関の扉を開いた。 いつもなら、お母さんが「おかえり」って言ってくれるはずだけど、 今日は出かけているのかそれがなかった。 電気を消しているから、なんだか家の中が暗くか感じる。 しーんとしていていつもの僕の家じゃないみたいに・・・。 その時、いきなり後ろから誰かに目隠しされた。 「うわあっ!?」 驚いた僕は思わず叫んだ。 その後、後ろにいる人は聞き覚えのある声でお約束の台詞を言った。 「だーれだ?」 僕は半分ため息混じりに答えた。 「兄様・・・」 目隠しは解かれて、僕は後ろに振り返る。 案の定、そこにいたのは「霧」兄様だった。 「雲、驚いたか?」 「ひどいよ、兄様・・・」 「あはは、ごめんごめん」 僕の本当に驚いた様子に兄様は笑いながら、謝ってきた。 兄様には、時々僕よりも子供っぽいところがあると思う。 前なんか、僕のミストの瓶の中にボムの死骸を入れるなんて悪戯を仕掛けられたし。 あの時は、さんざんな目にあったっけ。 戦いの練習で、それを使ったら、切る前に爆発して僕は気絶した。 怪我こそしなかったものの、僕は3日間目を覚まさなかったって聞いている。 「さぁさぁ、こんな所で立ってないで部屋に入ろう」 兄様が悪戯してきたんじゃないか、って言いかけたけど僕は大人だから言わなかった。 と言うか、言ったら兄様に何をされるか分かったモンじゃない。 僕にとって兄様という存在は、憧れもあったけど実際の所は、天敵に近い存在だ。 「どうした?雲」 玄関から動かない僕に兄様が問いかけてくる。 「な、なんでもないよ」 考えていたことが顔に出ないように僕は無理に笑った。 「そうか。着替えたらリビングに来いよ」 兄様は何も気にしない様子で、奥の部屋に入っていく。 一応、危機は去った。 僕は一度、深呼吸をして家の中に入った。 この後、ここはまるで地獄絵図みたいな状況になるなんて、この時の僕は思いもしなかった。 「雲、昼ご飯何が食べたい?」 リビングでくつろいでいると、兄様がキッチンから僕に尋ねた。 兄様は、剣の他に料理という特技を持っている。 剣だったら僕も負けないけど、料理だけは兄様に敵わない。 それに僕は兄様の料理が好きだ。 「う〜ん・・・。じゃあ、ホットケーキ」 「ホットケーキだな?それじゃあ少し待ってて」 兄様はてきぱきと作業を進めていく。 自然と良い匂いが僕の鼻をひくつかせる。 その時、兄様がちょっと探し物、と言ってキッチンを出て行った。 誰もいないキッチン・・・。そして作りかけの料理・・・。 僕は考えなければ良かったのに、いらぬ事を思いついてしまった。 やっぱり僕は兄様の弟ということか。 用心しながらホットケーキの種を入れてあるボールに近づいていく。 いつ、兄様が戻ってくるか分からない。 この緊張感がたまらなく気持ちいい。 兄様は、これがクセなのかな? 「よし・・・」 仕掛けが済んだら、後は何事もなかったかのように振る舞えばいいだけ。 兄様は、その後すぐに戻ってきた。 「待たせてごめんな」 僕は笑顔で首を振った。 これまでのことを知っている人なら、それは悪魔の笑顔に見えただろう。 兄様が、僕が仕掛けたホットケーキの種をフライパンに流し込む。 次の瞬間。 ボウン!!! キッチンから黒い煙が立ち上った。 その中心は、もちろんフライパン。 そして、その近くにいる兄様も被害を受けているわけで。 真っ赤な髪も服も焦げている。 僕は笑いを隠すのに必死だった。 だも、そんな中、まだ煙の立ち上るキッチンから地獄からの呼び声のような声が聞こえてきた。 「・・・く、も?」 僕の顔は一瞬して引きつった。 そこにいるのはいつもの兄様じゃない。 僕はいつもの仕返しのつもりでやったつもりだったけど、それを兄様の料理中に仕込んだのが間違いだった。 完璧主義の兄様は、料理だって完璧に仕上げないと気が済まない。 それを邪魔されたのだから怒るのは当然だ。 でも、それは僕が予想している物以上だった。 「お前、私の料理に、何をした?」 「あ・・・あう・・・あ・・・」 恐怖で声が出ない。 殺される! 僕は、この時本気でそう思った。 「悪い子だ・・・。悪い子にはお仕置きが必要だな・・・」 真っ赤な瞳が怒りに燃えている。 兄様はキッチンの隅に立て掛けていたフレアソードを手にもつ。 そして、兄様は事もあろうか、ミストまで取り出した。 −ミストが奏でる、燃ゆる旋律に、刻むがいい!赤燐のクラシック!!− 瓶が割れ、エネルギーの加わったミストから紅い一刀獣が姿を見せた。 まだ、子供の力で召喚されているから、一刀獣はそんなに大きい物じゃない。 でも、あれに攻撃されたら、今度は3日眠るだけじゃすむはずない。 やられる前にやり返せ。 剣の先生はそう言っている。 僕はありったけの勇気と無謀を承知で兄様と向かい合った。 そしてありったけの恨みも共に。 「兄様っ!僕だっていつも、つまらない悪戯をされて困っているんだ!」 −ミストが歌う、真実の調べに、答えるがいい!白扇のフォルテシモ!!− 僕の一刀獣と兄様の一刀獣がぶつかり合う。 途端、辺りは閃光に包まれ爆発した。 家は跡形もなくなり、僕たちも真っ黒焦げに。 そこへ、丁度母さんが戻ってきたものだから、僕たちは叱られるとかいう問題じゃなくなった。 僕はこれ以降悪戯はしない。そう誓う。 |